2022年4月に県民個人から「埼玉県立の男子高校が女子の入学を拒んでいるのは、(国連の)女子差別撤廃条約に違反しており、女子の入学を認めるべき」という趣旨の苦情申し出があり、調査を経て2023年8月30日付で埼玉県男女共同参画苦情処理委員(大学教授1名と弁護士2名の計3名で構成)から「男女別学であることだけでは条約違反とはされていないものの、男女の役割についての定型化された概念の撤廃が求められており、共学化が早期に実現されるべき」との勧告が県教育長に出されました。

 県立高校の共学化は3名の県男女共同参画苦情処理委員の見解のみで決定すべきものでは無く関係者の意見聴取を含む幅広く且つ深い議論が必要との観点から2023年9月県議会で「今後の県教育委員会の対応」を取り上げ、県教育委員会が中学生らを対象としたアンケート調査や関係者の意見聴取等を始めた所、浦和高校同窓会から2023年12月1日付で知事と教育長に「別学は維持されていくべき」とする意見書が提出され、署名活動が開始されています。 
 
 県立高校の在り方については様々な調査結果とエビデンスを踏まえ、共学派と別学派が同数の審議会等を設置して長期的・多角的な見地から結論を導いて欲しいと思います。主な論点は次の3点になるでしょう。

① 別学の公立高校を希望する学生の意見も尊重されるべきでは?

 やはり私学はお金がかかりますので、経済的な面から公立の別学校を希望する生徒・父兄もいます。埼玉県の公立校の9割以上は共学であり、全てを一律に共学化する必要はなく、関係者の反対が多い学校は別学で残しても良いのではないでしょうか?
 国は平成12年2月の参議院本会議に於いて「教育基本法では、人種、信条、性別等によって教育上差別されない事及び教育上男女の共学は認められなければならない事が定められているが、これは性別にかかわりなく、学校における教育を受ける機会を均等に付与し、及び当該教育の内容、水準等が同等であることを確保する趣旨であり、すべての学校における男女の共学を一律に強制するものではない。個々の公立の高等学校や国立の大学が男女別学であっても、同法及び憲法第十四条に違反するものではないと考える。」と答弁しており、筑波大学付属駒場高校とお茶の水女子大学附属高校の別学を容認しています。

② 公立高校の一律共学化が経済格差の拡大を招く可能性が危惧される。
 拓殖大学政経学部の佐藤一磨教授は別学校を共学化した韓国では大学修学能力試験の成績が男子で8~11%、女子で10~18%低下した検証結果とトリニダード・トバゴ共和国で12~17歳が通う中等学校の成績の低い20の共学校を男女別学へ転換した所、男女ともに成績が向上し、更に、男子の場合、18歳までの逮捕割合が約60%低下し、女子では18歳までの妊娠割合が約40%低下した実例を上げ、「別学の方が成績が上がるだけでなく、問題行動も減少する」という検証結果を報告しています。
 共学化により浦和高校や浦和一女の大学進学成績が悪化した場合、教育熱心な家庭の子弟は中高一貫の私立に流れます。入学後は公的助成金も有りますが、入学前の塾代(小学4年:30-60万円/年、小学5年:40ー80万円/年、小学6年:60―130万円/年)に対する経済力の差が拡大する事が危惧されます。
 歴史作家の塩野七生さんが「平等を強調すればするほど不平等な社会が出来る。」と述べられていますが、米国の名門と称される大学は全て私立であり、そこに入学するためには年間400万円以上の学費を払って私立の中高校に通わなければならない状況になっています。

③ 共学化すればジェンダー平等社会になるのか?
 桜蔭学園(女子校)の佐々木和枝元校長は「本校では共学校に見られるような、『いつの間にか男と女の役割が分かれ、男は男らしく、女は女らしくを求められる傾向』が存在せず、その結果、男は理系、女は文系というバイアスがかからず、理系の得意な女性が理系に進学しやすい環境にある。また、男らしく、女らしくのバイアスがからないため、女子校ではリーダーシップも育まれやすい。」と述べられています。伝統的な男女観の定型化からの解放を狙って共学化が進められていますが、共学校の方がむしろ男子に頼って、女子のリーダーシップが育ち難いという意見もある様です。

 アメリカでは男女平等の観点から、教育の性差別禁止を目的とした法律を制定し、公立学校は共学化が義務づけられましたが、2006年の法改正により、公立校の男女別学を認めるようになりました。イギリスではGSCEという16歳で受験する全国統一試験で、別学校の女子の平均点が、共学校の女子の平均点の1.25倍高かったという報告もあり、共学化の進んだイギリスや前述の韓国でも別学のよさが見直されつつある様です。

今月のひとり言
2024年4月17日
県立高校の男女共学化問題