さいたま市長選挙、千葉市長選挙、静岡県知事選挙、東京都議選挙etc. これらの総選挙前の地方選挙はマスメディアによって市政・県政・都政の問題よりも「自民党 or 民主党」という政権選択を争点とされてしまいました。
 来る8月30日の総選挙では税制・社会保障、教育、外交・安全保障など国政の本質的課題が争点になる事を期待したいのですが、政策論議よりも政局や醜聞の方が面白いのも確かです。

 普通選挙制度の下では国民のレベル以上の政治家は選出されないと言われますが、その国の政治家のレベルはその国のマスメディアのレベルを反映しています。即ち、市会議員レベルでは有権者が候補者に直接会って「人となり」を知る事が可能ですが、国政レベルでは候補者に直接会って「人となり」を知り得る有権者は少数で、大多数はメディアからの情報で判断せざるを得ず、ここに間違いが生ずる原因があります。

 小泉前首相も「郵政解散」でメディアを上手く使いましたが、近年、マスメディアを最も上手く使った政治家はヒトラーでしょう。
 「政治は分りにくい」と言われますが、ヒトラーは「全てのドイツ人にパンと職を」という極めて分かり易い公約を掲げ、第1次大戦後のドイツの町に溢れていた600万人とも言われた失業者を50万人に減らし、見事に景気回復させました。そして、その天才的演説力と卓越したメディア操作で圧倒的な国民の支持を得て国民投票で総統に迎えられましたが、その後ヒトラーがドイツをどういう方向に導いたかは述べる必要がないでしょう。

 現代にも通じる人間社会の本質が百家争鳴の時代に言い尽くされている事に驚くばかりですが、「マスメディアが国を滅ぼす」という事も紀元前に韓非子が「五蠹(ごと)」という物語の中で看破しています。ここで「蠹(と)」というのは木を食い荒らす虫のことで、学者、言論人、遊説家など言うだけで自分の発言に対して責任を取る必要が無い人達が国を食い荒らすと言っています。当時はマスメディアという言葉はなく、韓非子は「口舌の徒」と称していますが、現在で言えば、ニュースキャスター、ジャーナリスト、有識者といわれる人達に相当するでしょうか。

 前回のサーカーワールドカップを思い出してみて下さい。予選リーグ第1戦のオーストラリア戦でNHKの解説者は「オーストラリアの選手は後半疲れる」と言っていました。昭和17年9月21日の朝日新聞も「大東亜戦争は菜食人種と肉食人種の戦いである。肉を食うものは一時的に強い力を出すが持続力が無く長距離を走ればライオンはキリンに負ける」と書いています。

 戦前の朝日新聞は快進撃を続けるヒトラーを礼賛し今から見れば決定的な誤りと考えられる日独伊三国同盟締結を歓迎する記事を書いていますが、サーカーワールドカップ予選リーグの第3戦、冷静に戦力を分析すれば日本がブラジルに勝てない事は素人目にも明らかでした。しかしながら、メディアは「奇跡が起こって勝つ」の大合唱で、「日本はブラジルに勝てない」と報じたメディアは1社もありませんでした。
 これこそ「いつか来た道」で冷静に戦力を分析すれば日本はアメリカに勝てないにもかかわらず、朝日新聞に「神風が吹く」と言われて何人の日本人が死んでいったのでしょうか。


2009年8月9日
【政治家のレベル
   =国民のレベル
      =マスメディアのレベル】