【ニュージーランド行政視察報告(その2)】
【改革=ハードランディング】
 そもそも、改革にはハードランディングしかなく、ソフトランディングは改革とは呼ばない訳だが、ニュージーランドの行革はまさに「小善は大悪に通じ、大善は非情に似たり」という諺を体現していると言える。

 「耳障りの良い事は大きな誤りを招き、本当に良い事はシビアなものである」という意味だが、例えば、子供のわがままを安易に聞き入れる(小善)と将来的にはその子のためにならず(大悪)、わがままを認めない事(非情)は、将来的には子供のためになる(大善)。

 企業経営に於いても不採算部門を存続させる事は(小善)、大局的には企業の存続を危うくし(大悪)、不採算部門のカット(非情)は、最終的には企業の益となる(大善)。

 ニュージーランドの行革に於いても地方自治体の要求を国が受け入れれば、財政再建は成し得なかったであろうし、逆に耳を貸さなかったから、ニュージーランド経済が立ち直ったと言える訳だが、今の日本の政治に欠けているものはこの決断する「非情さ」ではなかろうか?

 選挙を恐れて先送りを繰り返して来た結果が国と地方を合わせて約700兆円にも達するもはや返済不能な巨額の財政赤字である。それに加えて「ゆとりの教育」から「もの作り」の競争力が低下して貿易も赤字に転ずれば円が国際通貨としての価値を失い紙切れになりかねない危機的財政状況である。

 明治政府は近代化をしないと欧米列強の植民地となる危機感から廃藩置県と四民平等を決断し、士族の大リストラを断行した。しかしながら、最近の日本の政治家で「非情な決断」を断行し得たのは中曽根総理の「国鉄の民営化」と竹下総理の「消費税導入」ぐらいでその後はない。竹下内閣の支持率は消費税導入後、一桁に低下し、解散に追い込まれたが、少子高齢社会となった今、「消費税の導入は竹下首相の政治生命を掛けた大英断であった」と評価できる。そして、逆に竹下内閣の後は「日本の失われた10年」と言われて来た。

 小泉首相の掲げる「三位一体改革」は「国鉄の民営化」や「消費税導入」に匹敵する大改革であるが、地方自治体が何を言おうが、改革を断行できるかどうかがポイントであろう。


【さいごに】
 「善人には断は下せない」、これは戦国武将の毛利元就の言葉だが、いかなる政策も、必ずそれによって利益を得る人と不利益を被る人が生じる。ニュージーランドの改革に於いても、民営化された国営企業の多くが外資の手に落ちたとか、税制の直間比率を変えたことにより、貧富の差が拡大したという批判の声も多い。

 しかしながら「頑張った者が報われる小さな政府」という方向性が破綻寸前であったニュージーランド経済を蘇らせた事は確かである。いにしえのローマ帝国から現在のアメリカ合衆国に至るまで長期間覇権国家として繁栄した国は全て民間活力が旺盛な小さな政府であり、何でもかんでも「お上」がやる大きな政府は長続きしない事を歴史は示している。


2004年12月24日